コンピュータの集中と分散

野いちご

現在のコンピュータの世界ではクラウド処理が流行していますが、過去を振り返ってみると、コンピュータの処理は集中と分散のせめぎ合いです。

ネットワークのない時代のコンピュータは集中しかありません。一括処理しかありませんでした。

端末とコンピュータを回線で接続し、TSS(Time Sharing System)やオンラインリアルタイムシステムが登場しても、集中処理でした。コンピュータですべての処理を実行し、文字コードを端末に送り、端末は文字コードに対応する文字を表示するだけでした。

分散処理と言えるのは、1980年代にインテリジェント端末と言われるものが出てきてからです。それでもTSSやオンラインリアルタイムシステムの端末としても使え、パソコンのように端末だけで小さな処理もできるという程度のものでした。コンピュータと端末のデータ交換があったとしても、ファイル転送か、フロッピィディスクなどの媒体で行っていました。

そのうちに、だんだんと端末側の処理とオンライン処理と連携したシステムも現れてきました。私の記憶では、端末操作のヘルプシステムを端末側に実行させ、オンラインシステムの操作中に、ファンクションキーで端末側のヘルプシステムを呼び出せるものがありました。

本格的な分散処理は、クライアントサーバシステムの登場を待たなければなりません。このころまでは、コンピュータ処理にとって回線速度は最大のネックでした。端末の使い勝手をよくするために、端末側で複雑な処理をしなければなりません。それを遅い回線を使って実現したのが、クライアントサーバシステムです。

クライアント側には主にユーザインターフェースに関する処理を行わせ、サーバ側では主にデータベースに関する処理を行わせ、回線を流れるデータ量を少なくしました。

クライアントサーバシステムは、その後、データベースと業務処理とユーザインターフェースの3階層に分かれたシステムに進化していきます。

クライアントにはパソコンが使われるようになっていました。また、パソコン側にデータを持たせるシステムも増えました。すると新たな問題が発生しました。パソコンを盗まれたり、紛失したりしたときのデータ漏洩です。ノートパソコンを持ち歩き、出張先や外出先でも仕事をする人が増えた時代です。

その対策として、シンクライアントと言われるシステムが誕生しました。パソコン側には一切データを持たず、純粋に端末として使うシステムです。データ漏洩の問題から、分散処理から集中処理に揺り戻しがありました。

もう一つの流れがクラウドです。クラウドにすべてを預け、必要に応じて使うシステムです。無線も含め、回線速度が飛躍的に高速化して可能になったシステムです。利用者からは、クラウドで集中処理をしているように見えるシステムです。

1960年代にMITで開発していたMulticsというシステムがあります。電話や電力サービスのようなコンピュータ・ユーティリティを目標としていました。すべての処理を集中し、最適化して、利用者には必要に応じて使わせようというシステムです。結局、オーバーヘッドが大きくなり、プロジェクトは失敗に終わりました。その反省から出てきたのが、UNIXです。

現在のクラウドは、このMulticsに非常によく似ています。違うのは、Multicsは1台のコンピュータで実現しようとしていたのに対し、クラウドは地理的にも分散された多数のコンピュータで実現されているところです。クラウドは、利用者からはクラウドに集中している集中処理に見えますが、クラウドの中では世界中に分散された分散処理となっています。

コンピュータ処理の歴史を振り返ってみましたが、集中処理と分散処理の間で、歴史は繰り返し、揺れ動いているように見えます。しかし、より多くの人に使いやすいシステムに向かって進んでいるという点では、確実に進歩していると言えます。

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