『第一線のプロがホンネで教える 超実践的 Webディレクターの教科書』は、これからWeb業界に関わってみようという人やWebサイトの制作スタッフをまとめるWebディレクターをやろうという人に、Webディレクションのさわりを知ってもらうための本です。
ここでは、本書の中からWebディレクションで発生する典型的なトラブルと、私の考える解決方法を紹介します。
やりたいことが盛りだくさんなのに低予算
やりたいことはたくさんあるのに、お金はないというパターンです。
お客様の言うことをすべて受け入れ、そのまま進むと大赤字になります。
お客様が予算を追加してくれれば解決するようにも見えますが、そうとは限りません。スケジュールの問題や必要な要員が確保できるかという問題もあります。
そもそもお客様の言うことをすべて受け入れることが、お客様にとって良いことなのかという問題があります。
新国立競技場の建設プロジェクトがこの問題にぶつかっていました。有識者会議という名目で各界の重鎮を集め、要望だけを集めました。
ところが、文部科学大臣も日本スポーツ振興センター(Japan Sport Council, JSC)の理事長も、プロジェクトの方針を意思決定しなかったことが、プロジェクトの迷走を招きました。
この問題の解決方法は、プロジェクトの目的や制約条件を関係者で共有し、最適解に落とし込むことです。
言葉で書くのは簡単ですが、業務や技術に関する深い知識と高いスキル、関係者と折衝し結論をまとめる人間力が必要です。
何回も差し戻し
制作側から発注者側に提示した案が、何回も差し戻されるパターンです。
要件定義が甘いと、このようになりがちです。制作側が発注者側の状況を十分に把握していなかった可能性があります。
発注者側のイメージがあやふやで、制作側の案を見るたびに、別のイメージがわいてくるという場合もあります。
途中から発注者側の上司が入ってきて、ちゃぶ台返しを行う場合もあります。
この問題を起こさないためには、関係者で要件定義を可能な限り詳細に固め、イメージを共有することです。関係者の中には、発注者側の上司も入れることを忘れてはなりません。
もし、要件やイメージがぶれることがあれば、最初から見直しになるという関係者間の合意が必要です。
メンバーのスキルが低い
出来上がってくるものが必要な要件や品質を満たしていないという場合です。責め続けられたメンバーは、鬱になったり、突然失踪したりすることもあります。
必要なスキルを持ったメンバーを集めることが大切ですが、メンバーがすでにいるところに自分が後から加わった場合など、思うようにならないこともあります。
メンバーのスキルアップが期待でき、それを待てるならベストですが、そうとも限りません。
基本は必要なスキルを持ったメンバーを探し、連れてくることですが、なかなか思うようにならないこともあります。
そんなときには、現実的な妥協点を関係者と探るしかありません。
コミュニケーションがとれない
ここでいうコミュニケーションは、お客様の真の要求に関するコミュニケーションです。
お客様の言うことを表面的に聞くことは誰でもできます。
大切なことは、お客様を理解し、言葉の奥にある真の要求を推測し、満足させることです。そのためには、お客様の業務やその背景を知ったうえで、状況に応じた適切な提案をしなければなりません。
おわりに
『第一線のプロがホンネで教える 超実践的 Webディレクターの教科書』の中にあるWebディレクターが巻き込まれそうなトラブルに対し、基本的な解決策を書きました。
このようにしてみると、Webディレクションは、私が長年かかわってきたコンピュータシステム開発のプロジェクトマネジメントと非常に良く似ています。同じと言ってもいいかもしれません。
本書の中に「デキるWebディレクターに共通する4つのスキル」という節があります。
- 環境をコーディネートすること
- ビジネスの理解を深めること
- 人脈を築くこと
- 提案力を磨くこと
このようにまとめるとプロジェクトマネージャと同じです。人脈の内容が違うところ、提案の内容が違うところがありますが、そこは開発するシステムによる違いと大差はありません。
コンピュータシステムのプロジェクトマネジメントの経験者は、必要な知識を身につけ、人脈を築けば、Webディレクターに転身することは、比較的容易だという印象を持ちました。