日本のソフトウェア産業はどうしたら泥沼からはい上がれるか | 定年起業のためのウェブコンサルティング

日本のソフトウェア産業はどうしたら泥沼からはい上がれるか

現在の日本のソフトウェア産業は、米国に大きな後れを取っています。

Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftなどに匹敵する企業は日本に存在しません。

もともと、日本のエンジニアの技術力は世界でもトップレベルです。

日本の大学生は、2014年2月に米MITで行われたプログラミングコンテストでトップ20人中15人を占めました。(米国エンジニアリングのいまを体験せよ:日本 vs. アメリカの学生プログラミングコンテスト ≪ WIRED.jp

それにもかかわらず、日本のソフトウェア産業の進歩が止まってしまったのは、日本のソフトウェア産業の仕事にその原因があります。

ソフトウェアエンジニアの勤め先

日本と米国では、ソフトウェアエンジニアがどこに勤めているかに大きな違いがあります。

日本のソフトウェアエンジニアの多くは、IT企業に勤めています。IT企業で、お客様であるユーザー企業の業務システムの開発を行っています。

米国のソフトウェアエンジニアの多くは、ユーザー企業に勤めています。ユーザー企業で自分の会社のソフトウェアシステムの開発を行っています。

この違いは、企業でコンピュータが普及し始めた1970年代に、日本のIT企業がハードウェアを売り込むために、ユーザー企業の業務システムを無償で開発したことに始まります。

米国のユーザー企業は、自らのシステムを開発するためにソフトウェアエンジニアを雇いました。

日本のユーザー企業は、IT企業が開発してくれるため、ソフトウェアエンジニアをあまり雇いませんでした。日本のIT企業が、ユーザー企業の業務システムを開発するために大量のソフトウェアエンジニアを雇いました。

IPA 独立行政法人 情報処理推進機構:IT人材育成事業:IT人材白書」によると、2009年の米国のITサービス企業技術者数941,410人、ユーザー企業技術者数2,362,300人に対し、日本のITサービス企業技術者数771,436人、ユーザー企業技術者数254,721人となっています。

技術者数

ITゼネコン

日本のIT企業は、ユーザー企業の業務システムを開発するためにソフトウェアエンジニアを大量に雇いましたが、それでも足りませんでした。

足りないソフトウェアエンジニアは、外部の企業から調達しました。下請け、孫請けとつらなり、ITゼネコンと呼ばれるピラミッド構造の企業集団が形成されていきました。

ユーザー企業の業務システムの開発

ユーザー企業は自らの業務システムには詳しいですが、ITは詳しくありません。自分たちの業務システムの要望をすべて実現するように要求します。

IT企業にとっては、ユーザー企業はお客様です。基本的にお客様の要求を実現しようとします。

こうして、IT企業の開発するユーザー企業の業務システムは複雑になっていきます。パッケージに業務を合わせ、安くしようということにはなりません。

ユーザー企業とIT企業の契約が、ソフトウェアエンジニアの工数を提供する契約であった場合には、付加価値を生まないため、IT企業の利益はわずかなものになります。

そのため、IT企業は請負契約を結び、契約金額を固定した上で、開発原価を下げようと考えました。

しかし、ソフトウェアは契約時点で要件を固めることができません。作ってみないとわからないことがたくさんあります。かえって大きな赤字をだすプロジェクトが増えました。

また、ユーザー企業は自分たちの要求を実現しようとします。IT企業は原価を安くしようとします。ここにユーザー企業とIT企業の対立が発生します。

ユーザー企業の業務システムの開発は、お互いにWin-Winの関係になりません。

このことは、ソフトウェアエンジニアのモチベーションを下げます。さらに、人によってはメンタル面の病気までも引き起こします。

管理中心の業務

ITゼネコンにおける多重請負構造での開発では、元請けの仕事はほとんど管理業務になります。

大学を卒業したばかりの優秀なソフトウェアエンジニアが、新入社員の時から管理業務ばかりやらされるということもあります。ソフトウェア開発のスキルを磨く余地がありません。

また、日本企業はソフトウェア開発を工場におけるハードウェアの製造と同じように考えています。

設計と製造を分離し、製造を下請けの会社に発注します。元請けに近いところでは、ますますソフトウェア開発から離れた仕事となります。

低い利益率

ソフトウェアエンジニアの工数を提供するような仕事では、付加価値をつけられません。

請負契約でユーザー企業の業務システムを開発するとリスクが発生します。

多くの場合、業務システムの開発では契約時に要件を決定できません。あいまいな要件は、請負側であるIT企業に不利になります。大きな赤字になることさえあります。

さらに、受注時に競合すれば、値引きを迫られます。

ユーザー企業の業務システムを開発する日本のIT企業は利益を上げることはできません。

日本のIT企業は、米国と利益率で大きな差ができています。

企業 売上高 営業利益 営業利益率
IBM 90,649 43,628 48%
Oracle 7,888 4,877 62%
SAP 18,565 4,651 25%
NTTデータ 13,019 857 7%
NEC 30,716 1,146 4%
日立 90,411 4,220 5%
富士通 43,817 953 2%

総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年)」より

まとめ

日本のIT企業が、ユーザー企業にハードウェアを売るために、業務システムの開発を無償でサービスしてしまったことからはじまりました。

無償の開発を有償の契約にすることはできても、そこから抜けられません。

大量に雇ったソフトウェアエンジニアを抱え続けなければなりません。日本に雇用流動性がないことも影響しています。

そのため、みずほ銀行のシステム更改やマイナンバー関連のシステム開発のような大型案件があると飛びつかざるを得ません。

ソフトウェアエンジニアの仕事も管理業務ばかりで、スキルが上がりません。

利益を上げることもできません。

こうして日本のソフトウェア産業はダメになってしまいました。

この状況を抜け出すためには、ユーザー企業の業務システム開発に見切りをつけるしかありません。

他社の業務システムではなく、自らのサービスのためにソフトウェアを開発する企業が、ここから抜け出すことができます。

ソフトウェア産業で働こうと思うならば、他社の業務システムを開発する会社ではなく、自らのソフトウェアを開発している企業を渡り歩いてスキルを磨くことが必要です。

それが、雇用の流動性を高めることにもなり、ひいては日本のソフトウェア産業復活につながります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローはこちらからお願いします。