ITシステム開発は、その多くが失敗するといわれています。原因のひとつは見積もりです。完成してみると当初の見積もりの数倍となる場合もあります。
顧客は、システム開発を発注する際、複数のベンダーに提案と見積もりを要求します。本来であれば、提案要求書に仕様がきちんと書かれるべきですが、簡単な資料しかない場合も珍しくありません。きちんと書かれた提案要求書でもあいまいな点は多数含まれます。顧客の頭の中でも、この段階で、システムイメージが細部まで明確になっていることはありません。
すなわち、見積もりはあいまいな条件の元で作成されることになります。この時にベンダー側で行われがちなミスの一つは、顧客の予算に合わせて見積もりを作成することです。顧客の予算以上の見積もりを提出しても受注できません。顧客の予算に合わせるために、システムに条件をつけようとします。
しかし、顧客側はあいまいとはいえシステムのイメージを持っています。ベンダーのつけた条件がイメージと合わなければ拒否します。あいまいであれば、都合よく解釈します。そのため、受注後のシステム仕様を決める段階では、顧客のイメージとベンダーのつけた条件のせめぎあいとなります。多くの場合、ベンダー側が折れることになります。その結果、開発費用は見積もりよりも膨らむことになります。
顧客がベンダーに発注するのではなく、社内開発をする場合も似た状況となります。見積もりは、抱えている要員と納期に合わせようとします。開発部門は投入可能なリソースからシステム規模をイメージします。ところが、システム仕様を決める段階で、エンドユーザー部門の要求は膨らんできます。かくして、社内開発の場合も当初の見積もりよりも費用がかかることになります。
このような失敗を繰り返した結果、ITシステムの開発では、あいまいな条件のもとでの見積もり提示を避けるようになります。ベンダー側は最初の段階では、要件定義だけを受注し、その結果決まった要件をもとに次のシステム設計を受注しようとします。社内開発でも同様に要件定義だけからはじめようとします。
これは、金を出す側にリスクを移す方法です。多段階に分けて進めることにより、開発側のリスクは減少します。しかし、金を出す側では、最初の段階でいくらかかるかわかりません。
すると、開発の進め方でせめぎあいが発生します。多段階に分けて進めたい開発側と最初に全体費用を確定させてしまいたい受益者側との間の争いとなります。
最初の段階で全体の詳細な仕様を決められない以上、理論的には開発側の多段階方式に分があります。しかし、金をだすのは受益者側です。費用がどんどん膨らむのではたまりません。政治的な駆け引きの世界になります。
顧客が複数のベンダーから発注先を選択する場合は、ベンダー間の受注競争となります。どうしても受注したいベンダーは、あいまいな条件のまま一括受注するリスクを冒すことになります。
かくして、ITシステム開発の失敗はいつまでたってもなくなりません。ITシステム開発における見積もりを正確にするためには、多段階方式にすることですが、受注競争がそれを許しません。ITシステム開発の見積もりミスをなくすためには、受注競争のないブルーオーシャン領域を見つけることが必要です。ブルーオーシャン領域において多段階方式で行うことが、見積もりを正確にする方法です。