アマゾンジャパンと出版社6社が、発売から一定期間がたった書籍の値下げ販売を始めます。
出版6社、発売後一定期間で値下げ アマゾンと組む :日本経済新聞
インターネット通販大手のアマゾンジャパン(東京・目黒)とダイヤモンド社(東京・渋谷)など中堅出版社6社は26日から、発売から一定期間がたった書籍の値下げ販売を始める。まず約110タイトルをアマゾンのサイトで定価から2割下げる。低価格で集客したいアマゾンと、返品を減らしたい出版社の思惑が一致した。
出典:日本経済新聞
再販制度の対象となっている書籍は、出版社が小売価格を決めます。書店が安く売ることはできません。その代わりに、売れ残った場合、書店は出版社に返品することができます。地域や書店の規模に関係なく、同一価格で書籍を読者に提供するためとされています。
その再販制度が、アマゾンと一部の出版社の書籍で破られることになります。本をたくさん読む人にとっては、条件付きとはいえ本を安く買えることになります。それ以外に、どのような影響があるでしょうか?
発売から一定期間たった書籍が値下げの対象になります。定常的に長い期間売れる本は対象にしないでしょうから、対象の本はほとんど売れなくなっているはずです。
発売から一定期間たった書籍が安くなったという理由で買う人はいるでしょうか? ほとんどいないと思います。発売から一定期間たった書籍を買う人は、どこかで紹介されたなどの理由で読みたくなった人です。
書籍が値下げされても、売り上げはほとんど変わりません。
値下げする本をアマゾンが買い取る契約であるならば、出版社への返品は減ります。出版社にすれば、これが最大のメリットになります。
古本が手に入れば古本を買う人は、アマゾンで新しい書籍と古本が同じ値段で売られていれば、新しい本を買います。
しかし、アマゾンで新しい本が値下げされれば、古本も値下げされます。その結果、古本を買う人はやはり古本を買います。
新しい本を買う人は、アマゾンで買えば他の書店よりも安くなります。アマゾンで買う人が増えます。アマゾンにとっては売上・利益の増加が見込めます。
古本屋では、値下げせざるをえない分、売上が減ります。本の買い取り価格も下がりますから、利益は売上ほどには変わらないかもしれません。
始めたばかりのころは、対象の本も少なく、どの本が安くなっているのか調べるのも面倒です。しかし、賛同する出版社が増え、対象となる書籍も増えれば、発売から一定期間たった本はアマゾンで買えば安いということが広く知られます。
これがアマゾンのねらいです。
既存の書店がアマゾンと同様の対抗策をとったとき、書籍の再販制度は崩壊します。書籍は小売店の好きな価格で売られるようになります。中小の書店は生き残りがきわめて厳しくなります。
なお、主婦の友社は上記の記事は「全く事実と異なる」と抗議しています。
日本経済新聞6月26日付報道について | 主婦の友社 会社情報
本日、日本経済新聞に掲載されました「アマゾンで2割値下げ」に関する記事について、全く事実と異なる部分についてご説明いたします。
主婦の友社はアマゾンと「時限再販契約」など一切結んでおりません。
出典:主婦の友社 会社情報
どういう行き違いがあったのかわかりませんが、出版社としては取次や書店との関係が気になるところです。
パソコンでもDELLが直販で業績を伸ばしている間、既存のパソコンメーカーは販売店との関係を考慮してなかなか直販に踏み切れませんでした。どの業界でもあるイノベーションのジレンマです。
すばやく対応したほうが有利なことは歴史が示していますが、なかなか踏み切れないところが大きな組織の弱点です。