『Think Simple』では、アップルのマーケティング活動において、スティーブ・ジョブズがシンプルさにどれだけこだわったかが語られています。シンプルであることは、スティーブ・ジョブズのような独裁者がいたからできたこと、ふつうの大規模な組織では不可能なことのようにも思えます。
大きな組織で、委員会などを組織して検討したものは、複雑性の罠に、はまります。参加者の意見の違い、感覚の違い、それぞれの組織の利害関係などが絡むと、もうおしまいです。できあがるものは、あらゆる要望を考慮して、ふくれあがったあいまいなものになります。
コンピュータサイエンスの歴史を見ても、おおぜいで検討した結果、複雑になり、うまくいかなくなった例にことかきません。30年程前、DOD(Department of Defense:米国国防総省)で開発していたAdaというプログラミング言語がありました。同じ頃、cも使われはじめていました。cはその後、広く使われましたが、AdaはDODが総力を挙げて開発しましたが、普及することはありませんでした。
ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)で標準化を進めたOSIという通信手順がありました。世界中の委員会で検討を進めましたが、UNIXで採用されていたTCP/IPが普及すると誰も使わなくなりました。
本書では、シンプルさの要素を10上げています。
容赦なく伝える
少人数で取り組む
ミニマルに徹する
動かしつづける
イメージを利用する
フレーズを決める
カジュアルに話しあう
人間を中心にする
不可能を疑う
戦いを挑む
それぞれの詳細な内容は、本書を読んでいただくとして、最も重要なものは「少人数で取り組む」です。優秀な必要最小限の人間が、短時間で作り上げたものはシンプルになり得ます。
「少人数で取り組む」だけでは、日の目を見ないものになる可能性があります。そこで、最終意志決定者がはじめから入り込む必要があります。結果を見て承諾するだけではいけません。ジョブズのように、容赦なく難点を伝え、最終判断を下さなければなりません。
大きな組織で、シンプルなものを作るためには、最終意志決定者を含む最小限のグループで作るしかありません。