市場主義は、あらゆるものをカネで取引しようとしているかのようです。それに対し、サンデル教授は問いかけています。「それをお金で買いますか」と。
序章で紹介されている例だけでも次のものがあります。
・刑務所の独房の格上げ:一晩82ドル
・一人で車に乗っていても相乗り車線を利用できる権利:ラッシュアワーの間8ドル
・インドの代理母による妊娠代行サービス:6250ドル
・アメリカ合衆国へ移住する権利:50万ドル
・絶滅の危機に瀕したクロサイを撃つ権利:15万ドル
・主治医の携帯電話の番号:年に1500ドルから
・1トンの炭素を大気中に排出する権利:13ユーロ
・子供を名門大学へ入学させる:?
逆に、お金を稼ぐ手段も驚くような例が紹介されています。
・額(あるいは体のどこかほかの部分)のスペースを広告用に貸し出す:777ドル
・製薬会社の安全性臨床試験で人間モルモットになる:7500ドル
・民間軍事会社の一員としてソマリアやアフガニスタンで戦う:1月に250ドルから1日1000ドルまで
・議会の公聴会に出席したいロビイストの席を取るため、連邦議会議事堂の行列に徹夜で並ぶ:1時間に15~20ドル
・あなたがダラスの成績不振校の2年生なら、本を読む:2ドル
・あなたが肥満体だとすれば、4ヶ月で14ポンド痩せる:378ドル
・病人や高齢者の生命保険を買って、彼らが生きている間は年間保険料を払い、死んだときに死亡給付金を受け取る:ことによると数百万ドル(保険内容による)
本書の例の中で、私が興味を持ったものにダフ行為があります。ヨセミテ国立公園のキャンプ場、ローマ教皇ベネディクト16世の野外ミサ、ブルース・スプリングスティーンのライブコンサートが例としてあげられています。
ヨセミテのキャンプ場をめぐるダフ行為へは、二種類の反感があります。資金の乏しい人たちに対して不公正ではないかという反感と、自然への賞賛あるいは畏怖にすら値する場所に対する冒涜であるという反感です。
ローマ教皇のミサの無料チケットに対するダフ行為は、神聖な善を儲けの道具に変えることで誤った行為だと非難されました。
ブルース・スプリングスティーンのチケットは割安であり、労働者階級のファンへの贈り物だそうです。そのチケットのダフ行為は、祝賀行事でもあるコンサートを台無しにすると批判されました。
日本では、ダフ行為は多くの自治体で迷惑防止条例違反となります。しかし、ダフ行為ではないかと疑わせるチケットが、インターネットオークションでは、かなり見受けられます。インターネットオークションの出品者が、ダフ行為の疑いで逮捕されたというニュースが、新聞に掲載されたこともありました。
日本では、違法行為であることを知らずに、ダフ行為をインターネットオークションで行っている人が多いように感じます。しかも、違法行為にもかかわらず、非難の声が、米国ほど大きくないという奇妙な状況です。
日本で行われるコンサートのチケットに対するダフ行為への非難の理由としては、資金の乏しい人たちに対して不公正だという反感が主なものとなります。所得格差が米国ほど大きくない日本では、不公正だという反感も小さいのでしょうか。