日本のソフトウェア産業は、システム開発の請負で価格競争に陥り、優秀な人材を毀損してきました。これが、米国のソフトウェア産業に大きく遅れをとった原因です。
ITは、業務や経営を改革するための道具です。これは、ITが生まれたときから変わっていません。
そのため、システムエンジニアにとっては、業務を理解することは最も重要なことであり、ほとんどのシステム開発の目的は経営課題の解決でした。
ITが大衆化し、誰もがパソコンやスマートフォンを使いこなすようになると、ITのプロに業務や経営を学ばせるのではなく、業務や経営のプロにITを学んでもらう方が、業務や経営の革新の早道になります。
英語が事業に必須の環境において、英語のプロに事業を学んでもらうよりは、事業のプロに英語を学んでもらうことが選択されていることと同様です。その場合、英語のプロには通訳や翻訳などの他に、教育の役割が期待されます。
ITの場合も、ITのプロはITに閉じた世界で技術の進歩を図るか、ITの教育に携わるかになってきました。システムの仕様を考えるのは業務のプロで、ITのプロは開発を担当するという役割分担がされるようになりました。
そんな中で、日本のソフトウェア産業は、ソフトウェア開発をハードウェアの製造と同様に考え、ソフトウェアの生産性を上げることを目指してきました。業務のプロが考える仕様どおりのソフトウェアを開発するソフトウェアベンダーは、価格競争に陥ります。その結果、ソフトウェアの費用は人月の人件費で計られるようになりました。
このような環境では、ソフトウェア業界から才能ある人材が育つわけがありません。これが、日本のソフトウェア産業が米国に比較して大きく遅れをとった原因です。
業務システムを作りたい人が自分で簡単に作れる環境を用意することが、ソフトウェアエンジニアリングの本質です。ソフトウェアの価値とは、開発にかかった費用で決まるものではなく、ソフトウェアが生み出す価値で決まるものです。
1人が1日で作ったソフトウェアでも良いものには高い対価を払い、数百人月をかけて作ったソフトウェアでも価値に見合った対価しか払わないという市場でなければ人材は育ちません。
日本のソフトウェア産業はシステム開発の請負作業から脱却しなければなりません。それには、2つの道があります。顧客の経営課題を直接解決する道と、汎用的なソフトウェアを販売する道です。
顧客の経営課題を直接解決する道は、コンサルティングファームへの道です。汎用的なソフトウェアを販売する道は、多くの米国ソフトウェアベンダーがとっている道です。
日本のソフトウェア産業は、価値に見合った対価を得られる市場に進出しない限り、国際競争に勝ち抜き、発展していくことはありえません。