コンピュータと人間の思考プロセス

ハルジオン

 コンピュータが将棋をするときには、指し手の探索と評価を行います。人間も意識しているかどうかは別として、同じプロセスで考えています。

 MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)という言葉があります。もれなく、重なりなくということで、大きな課題を取り扱いやすい大きさの課題に分解するときに使います。同じことが、戦術の選択でも行われます。あらゆる場合を考えて、それぞれの場面の対応を考えておくときなどです。

 コンピュータにチェスや将棋をやらせるごく初期のプログラムでも、同じようなことが考えられました。可能なすべての手について調べるという方法です。詰め将棋は、この方法で解くことができます。しかし、一局全部をコンピュータにやらせようとすると、この方法では、できないことが分かりました。

 手の数が多すぎ、調べきれないのです。そこで考えられたのは、局面を評価する方法です。ある局面についてどちらがどれだけ有利かという評価を与え、より有利な局面に向かう手を選択するという方法です。

 ここで、探索と評価と2つのプロセスが出てきました。これは、人間の思考プロセスでも同じです。

 私が子供の時分に将棋を覚えたときのことです。負けるのは悔しいので、勝とうとします。いくらでも先が読めますが、どの手がいいのか判断できません。あまり考えていると、相手はいらいらしてきて、こちらを急がせます。

 しょうがないので、適当に指します。そうすると、その手が良かったのか悪かったのかわかりません。上級者はどの手が良いのか判断できるのに、自分は初心者なのでわからないのだと思いました。

 いくらでも先が読めるのに、妥協して適当に指さなければならないことが、おもしろくありませんでした。他の初心者は、どのようにして指し手を決めているのか不思議でした。

 今から考えると、他の初心者はほとんど何も考えずに適当に指して、勝った負けたと言っていたのだと思います。それでは、勝っても負けても、理由も分からず、上達も遅くなります。初心者が上達するための方法というものがあるのかもしれませんが、好敵手がいたわけでもなく、結局、将棋にはほとんど興味を持てませんでした。

 初心者の私は、すべての手の探索をやっていたのでした。上級者は、普通は指さない手の探索は行わず、特定の手だけを深く探索しています。

 これは、将棋だけでなく、他の分野でも同じです。手慣れた分野であれば、いちいちMECEに分解したりなどせず、もっとも重要な部分について、調査・分析をはじめます。

 探索と評価のうち、探索を省略するわけです。これは、思考を節約したい人間のクセです。わかりきったことを、いちいち調査・分析などやりたくありません。その代わり、常識外のところに、真の回答が潜んでいる場合には、見つかりません。探索の最初の段階で、探索範囲外にされてしまうからです。

 将棋でコンピュータが人間よりも強くなったのは、人間と同じ探索と評価という思考プロセスを採用し、評価のための情報を過去の棋譜から自動的に集めたからです。人間のように疲れることなく、人間と同じ思考プロセスを人間よりもはるかに高速にかつ大規模に実行します。その結果、人間のような見落としを行うことがなくなり、人間よりも強くなりました。

 将棋のもう一つの課題に、完全解明があります。完全解明とは、将棋に先手か後手のどちらかに必勝の手が存在するのか、それとも双方が最善手を指し続けると勝負がつかないのかを見極めることです。

 チェスや将棋の完全解明は、コンピュータの速度がさらに速くなり、すべての場合の調査を現実的な時間で完了するようになって、はじめて可能になると予想しています。必勝法が見つかるか、双方が最善手を指し続ければ勝負がつかないのかわかります。

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