「技術の進歩により人間の労働力が不要になり、失業が増えるのではないか。」この問に対する答えは、これまでは、「技術の進歩により新たな雇用が発生し、失業は増えない」でした。
産業革命時のラッダイト運動もそうでした。私が子供の時は、新美南吉の「おじいさんのランプ」で時代遅れのランプを捨て、電灯を扱うことを決心した主人公に快哉を送りました。
ところが、近年のITの進歩は速すぎるため、雇用を奪っていることが統計で示されています。ITの進歩は指数関数的であるため、人間の直観で理解できる速度を超えてしまいました。
そして、雇用の二極分化が進むと予想されます。コンピュータで置き換えることの難しい仕事には2種類あります。ひとつは、創造的な仕事で、新しいビジネスのアイデアを生み出したり、感動的な芸術作品を創ったりする仕事です。もうひとつは、庭師や美容師や看護士のように体と知覚をうまく組み合わせる必要のある仕事です。これ以外の仕事は、機械で代替されます。
どちらの仕事も人間の独壇場である期間がいつまで続くかはわかりません。人間の行うべき仕事はなくなってしまうように感じられます。しかし、人的資本、社会資本に投資し、組織改革を推進していけば、その組み合わせから生まれる仕事は莫大なものになります。
数学的には、組み合わせの数は階乗であり、指数よりもはるかに速く増加します。そのため、現在の失業率が高いとしてもそれは一時的なものであり、ITの進歩はあらゆるものを結びつけ、その組み合わせから新しい仕事が生み出されると予想されます。
技術の進歩は、古い仕事を駆逐しますが、それ以上の仕事を常に生み出します。今まで生み出された新しいものは、主に、新しい技術に関係する仕事と、所得増加により生まれる需要でした。これからは、新しい技術と、それを使う人間の生活と、そういう人々が集まる社会と、あらゆるものが組み合わさり、そこに新しい需要が生まれます。
組み合わせの数は、無限と言って良いほど増加します。新たな需要を見つけ、顧客を創造していく限り、人間の仕事が無くなることはありえません。