私が嫌いなものに紋切り型の挨拶があります。他人がするのを聞くのはまだ我慢ができますが、自分が紋切り型の挨拶をしなければならないときは、本当にいやな気分になります。
自分がする挨拶ですから、紋切り型にしなければすむ話なのですが、急に頼まれて出席した会合で突然挨拶を振られたようなときです。会合の趣旨も一言聞いたぐらいで、準備時間もなしですから、紋切り型の挨拶にならざるをえません。そんなときは、我ながら大変いやなものです。
短い挨拶であればまだしも、文章は凡庸では読んでもらえません。一般論だけの文章には読む価値がありません。ただし、ある人にとって、当たり前の一般論でも、別の人にとっては、目新しい意見ということはあり得るので難しいところではあります。
文章を読んでもらうためには、なんらかの新しい認識や情報が盛り込まれていなくてはなりません。文章に自分自身のマイナーな感覚が入ると凡庸ではなくなります。日本の社会では、周りと同質であることを求められることが多いですが、若山牧水の「白鳥は哀しからずや海の青空のあをにも染まずただよふ」の歌のように、昔から同質の社会になじまなかった人は大勢います。そういう人ほど優れた芸術作品を残しています。
自分自身のマイナー感覚を大事にしようと思わせてくれた一冊でした。