「出産したら女性は会社をお辞めなさい」という作家の曽野綾子さんの発言が物議を醸したのは、1年近く前のことでした。
その主張は次のようなものです。
赤ちゃんが生まれたら、仕事を続けるのは無理。赤ちゃんが熱を出せば、『早退させてください』となるのは無理もない。でも、そのたびに「どうぞ、急いで帰りなさい」と快く送り出せる会社ばかりではない。だから女性は赤ちゃんが生まれたら退職し、子供が大きくなったら、また再就職できる道を確保すればいい
会社に迷惑をかけてまで、なぜ女性は会社を辞めたがらないのか。共働きをしないと生活が苦しくなるからだろうけど、私たちが子育てをした頃は、みんな貧乏暮しだった。
女性が会社を辞めたがらない理由を、生活が苦しくなるからとしか、考えられないようです。女性が会社を辞めたがらないのは、キャリアの中断を避けたいためではないでしょうか?
マズローの自己実現理論によれば、人間の欲求は低い方から次のようになっています。
- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 所属と愛の欲求
- 承認の欲求
- 自己実現の欲求
何をしてこれらの欲求を満たすかは、人により異なります。それぞれの人が、好きで、能力があり、情熱を感じ、社会的にも有用である分野で満たそうとします。
その分野に多くの時間をかけるため、その分野の仕事を選択し、仕事を通じてこれらの欲求を満たそうとします。そのために、仕事のキャリアの中断を避けたいと考えます。
それは、男も女も同じです。
先の主張は、女性だけが、育児のためにキャリアを中断すべきだというものです。
そこには、男女が平等であるべきだということに対する理解がありません。男性は仕事で自己実現を目指してもいいが、女性は子供が生まれたら、あきらめなければならないと主張しています。
人類には、様々な差別があります。人種、宗教、門地など、多くの差別は望ましくないものと考えられ、なくすための努力が続けられています。性別による差別も同様です。
江戸時代の人に、武士と商人は、本来は平等だと説明しても説得は困難です。それと同じように、男女の差別が当たり前だと考えている人に、男女は平等であるべきだと納得してもらうことは難しいと思います。
しかし、人類の進歩は、差別をなくす方向に進んでいることは、歴史が示しています。
出産したら女性は会社を辞めろという主張は、これらの人間心理と社会の進歩を知らない人の主張です。