「ハクティビズム(hacktivism)」とは、「ハック(hack)」と「アクティビズム(activism)」からつくられた造語です。ハックとは、コンピュータのプログラムで道具を作成し、それを使用することにより、ある目的を達成することです。アクティビズムとは、積極行動主義あるいは政治的行動主義と呼ばれ、政治目的を達成するための運動の総称です。
ハクティビズムとはつまり、コンピュータプログラムで作成した道具で、社会に政治的な影響を与えることです。ハクティビズムは、次の3つに分類されます。
① political coding
② political cracking
③ performative hacktivism
political codingとは、魅力的な道具を作成・使用することで、社会に影響を与えることを意図するものです。ウィキリークスがこれに該当します。ウィキリークスは、社会に対し、不正は暴露されるという潜在的な可能性を生じさせることにより、一定の抑止力を与えたとみることができます。
political crackingとは、サイトを改ざんしたり、情報を盗んだり、特定のサーバーに多数のコンピュータがいっせいにアクセスすることにより、サーバーを処理不能にするDDOS攻撃(Distributed Denial of Service attack )といった行為を指し、現在では、そのほとんどの行為は、多くの国で違法となります。
performative hacktivismとは、政治的なパフォーマンスで行われるハクティビズムです。
『ハクティビズムとは何か』では、1950年代にアメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)でコンピュータに音楽を奏でさせようとしていたころから、2012年の「アノニマス」というハクティビズム集団の活動まで、ハクティビズムの歴史を概観し、その背景となる思想を解説しています。
当初はコンピュータの可能性を追求していたハクティビズム活動が、違法行為を含むようになってきたのは、1980年代末期です。他人の電話回線に進入して長距離電話をかける、クレジットカード番号を入手して不正使用するといった犯罪行為が拡大し、取り締まりが強化されていきました。
アクティビズムには、インド独立の父マハトマ・ガンディーの非暴力主義も含まれます。市民的不服従と呼ばれた、あえて違法行為を行うが、敵対勢力に物理的暴力を振るうことは禁じていた活動です。ここに、マハトマ・ガンディーの市民的不服従とハクティビズムにおける違法行為との違いに関する議論が起こりえます。
アメリカ政府が、自分たちの暗号解読の妨げになるため、高度な暗号化技術の使用に反対してきたことに対し、独裁政権下における虐げられた人々の連絡手段のサポートとして、暗号化技術を海外に放流した行為などのように、政府の政策が不適切であることを知らしめる行為は市民的不服従と同じといえます。
DVDをLinuxコンピュータ上で視聴するために、DVDのアクセスコントロールを解除することは、アメリカでは合法と判断されました。日本では、2012年の著作権法改正で、DVDのアクセスコントロールを解除してLinuxコンピュータ上で視聴することは、違法となりました。
立法府が問題の本質を理解しないまま法案を可決することは、ハクティビズムは市民的不服従と同じであるという口実になりえます。
クレジットカード情報を取得し、不正使用するなどという行為は、市民的不服従とはいえません。
「アノニマス」にも仮面をかぶってゴミ拾いをするアピール活動から、市民的不服従を表明した違法行為、さらには個人情報を流出させる違法行為など、さまざまな活動をするメンバーがいます。
こういった混沌の中で、ハクティビズムのどのような行為が市民的不服従として認められ、どのような行為が犯罪行為として断罪されるかは、これからのハクティビズム活動の中で定まってくると思います。