技術に関するエッセイ集です。興味深いエッセイがいくつかあります。ここでは、私の印象に残った3点を紹介します。
1.ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国
本書の書名ともなっています。日本企業は自社で利用するソフトのほとんどをIT企業に外注しているのに対し、米国企業はソフトを内製する比率が高くなっています。
その結果、日本のソフト開発技術者の大半はIT企業に所属しますが、米国のソフト開発技術者の大半はIT企業ではなく一般企業に所属しています。
米国企業の情報システム部門には日本の10倍のソフト開発技術者がいて、自ら開発プロジェクトをマネジメントします。自らの企業の課題をITシステムの開発により解決し、運用も手がけます。
日本企業は、自社ではシステムの企画を行い、開発はIT企業に外注します。請け負ったIT企業はさらに別のIT企業に再委託します。こうした多段階発注により、日本のIT企業はITゼネコンと呼ばれています。開発ノウハウは、最初の発注企業にも途中で請け負ったIT企業にもたまりません。
米国のソフト開発技術者は、大きなプロジェクトを進める企業に雇われます。終われば残る技術者もいますが、次のプロジェクトを求めて転籍していく技術者もいます。日本のソフト開発技術者は同一企業に在籍し続け、場合によっては同一顧客を担当し続けます。米国と日本と「どちらがプロフェッショナルと言えるのか」と著者は問うています。
このようなことになった原因について、別の記事で書いていますので、参照してください。
日米のソフトウェア産業の差はソフトウェア技術者の勤務先の違いという不思議
2.数値目標の暴走をどう防ぐか
業績評価指標として数値目標が使われます。数字はわかりやすい反面、結果に一喜一憂することになります。数値目標は業績向上のための手段ですが、それ自身が目的となってしまいます。
本来、顧客満足を目指すべきところを数値目標の達成を優先するようになります。この弊害は、成果主義やKPIとして企業の諸活動に現れてきます。
3.「システム内製」こそ理想の姿
自社で利用する情報システムは、社員が企画、設計、プログラミングをすべきだとしています。システムを内製していれば、企業の戦略に沿った基幹システムの企画、設計、開発が一番早く、安くできます。戦略変更にもすばやく対応できます。さらに開発ノウハウも蓄積できます。しかし、システムの内製を実現している日本企業はごくわずかです。
日本企業の多くは情報システムの開発を外注しています。運用も含めてアウトソーシングしている企業もあります。社内にシステムを管理できる人がいないためです。社内にシステムを管理できる人がいないことが、情報システム事故にもつながります。
まとめ
日本企業が情報システム開発を外注することの問題点は、ユーザー企業だけの問題ではありません。IT企業にとっても、システムの仕様決定はユーザー企業であり、自分たちはユーザー企業が決めた仕様に従って開発するだけという意識を植えつけています。
これが、日本のソフト開発技術者のスキルが米国よりも低く、日本のソフトウェア産業が米国に大きく差をつけられている原因のひとつとなっています。