日米のソフトウェア技術者の違い
日本のソフトウェア技術者の70%以上はソフトウェアベンダーに勤めています。米国のソフトウェア技術者の70%以上は、ユーザー企業に勤めています。
日本企業は自社で利用するソフトウェアの多くをIT企業に外注して開発しています。米国企業は多くを自社の社員が開発しています。
日本企業は、自社のシステムの開発や運用といった仕事はアウトソーシングし、社員はシステムの企画に注力しようと考えます。
米国企業は、システムに何か問題が発生した場合、アウトソーシングしていて大丈夫かと考えます。さらに、システムの企画などは、コンサルティング会社に頼めばよいと考えます。
意外と知られていない事実ですが、この違いはどこから来たのでしょうか?
日米のソフトウェア産業の違い
日本企業がコンピュータを使い始めた1970年代、日本のコンピュータベンダーは、米国のコンピュータベンダーと厳しい競争を繰り広げていました。そのため、日本のコンピュータベンダーは、ユーザー企業にコンピュータを売り込むときに、ユーザー企業の業務システムを無料で開発するという戦略をとりました。
日本のコンピュータベンダーは、コンピュータのハードウェアの利益を業務システムの無料開発で食いつぶしても、その後のハードウェアの増設やレベルアップで利益を得るビジネスモデルをつくりました。
米国では、ユーザー企業は自分たちで業務システムを開発していました。そのため、米国のコンピュータベンダーの利益率は日本のコンピュータベンダーとは比較にならないくらい高いものでした。
企業がコンピュータを使い始めたときに、日本と米国では、業務システムを開発するところが異なっていたのです。日本では、コンピュータベンダーがユーザー企業の業務システムを開発し、米国では、ユーザー企業が自分たちで開発していました。
この違いは、その後の日米のソフトウェア産業の発展に大きな影響を及ぼしました。
日本のソフトウェア産業の変遷
業務システムの開発のためには、業務を知らなければなりません。業務を知っているのは、ユーザー企業の人です。日本では、ユーザー企業の人が業務システムの仕様を決め、ベンダー企業は決められた仕様で、業務システムを開発するという構図ができあがりました。
仕様を決めるユーザー企業の人はコンピュータの専門化ではありません。そのため、ユーザー企業の決める仕様は、古い業務のやり方を踏襲したものとなります。抜本的な見直しなどはなかなか行われません。
そのため、業務システムは古い方法を引きずったその企業独特のシステムとなりがちです。昔から独自の方法で業務を行っているため、パッケージソフトなど使えないということになります。
ソフトウェア技術者は、ユーザー企業の人が作成した仕様に従って開発するだけで、自ら仕様を考える機会が少なくなります。人が作成した仕様に従って開発するという意識が骨の髄までしみこんでしまいます。そんなソフトウェア技術者には、新しいシステムの仕様を考えたり、提案したりすることはできなくなります。
さらに、日本のコンピュータベンダーは、大量の業務システムの開発をこなすため、ソフトウェアを工業製品のように分業で開発しようとしました。設計工程をスキルの高い技術者が行い、プログラムを書く製造工程以降をスキルは低いが安い技術者でまかなおうとしたのです。
当時の通産省がプログラマ不足の危機をあおったこともあり、ソフトウェアベンダーは、文系の学生までソフトウェア技術者として採用するようなことをしました。
自社で足りないソフトウェア技術者はパートナー会社から集めました。単なる人貸し業のようなソフトウェア会社がたくさんできました。
こうして日本には、パッケージソフトは普及せず、個別の業務システムが増えました。ユーザーの作成した仕様の通り開発することしか知らないソフトウェア技術者、スキルは高いがプログラムを書かないソフトウェア技術者、スキルの低いソフトウェア技術者が大量に生まれました。
米国のソフトウェア産業の強さ
米国では、自分の会社の業務を開発するため、ソフトウェア技術者は業務にもコンピュータにも精通することになります。
良いシステムができれば他社へ外販することもできますから、汎用的なシステムにすることをはじめから考えます。そのため、必要に応じて業務の根本的な見直しも行われます。
他人の作成した仕様に従ってシステムを開発するだけのソフトウェア技術者とは根本的に違います。自分で仕様を決め、設計し、プログラムも書きます。プログラムを書かないソフトウェア技術者や人の作成した設計書に従ってプログラムを書くだけのソフトウェア技術者は、技術力で大きな差をつけられます。
日本では、仕様を決める人、設計する人、プログラムを書く人が別々になっています。米国では一人の人が全部できます。この差が日本と米国のソフトウェア産業の大きな違いです。
日本のソフトウェア産業の歩むべき道
日本のソフトウェア産業が米国に追いつくためには、システム開発の体制を改め、新しい体制でスキルを身につけたソフトウェア技術者を育てなければなりません。
しかし、そのようなソフトウェアベンダーは、なかなか現れないかもしれません。その場合、現在の日本でソフトウェア技術者がスキルを磨くためには、新規開発を行うユーザー企業を渡り歩くのがベストの選択となります。