2011年2月、ワトソンという質問応答システムが、クイズ番組『ジョパディ』で人間のチャンピオンに勝ちました。これは、1997年にチェスで、「ディープブルー」が人間のチャンピオン、ガルリ・カスパロフに勝ったこと以上に技術的に画期的なことです。
1992年に終結した第五世代コンピュータプロジェクトが十分な成果が挙げられなかった原因として、当時の技術では「常識」を扱えなかったということがあります。エキスパートシステムとして特定の分野での人工知能はすばらしい成果がありましたが、「常識」には手も足も出ませんでした。今回の勝利は、「常識」の分野で、人間のチャンピオンに勝ったコンピュータシステムを作ることができたということを意味します。
今回の対戦でワトソンの弱点とされた点も克服は容易です。一つ目が誤答の繰り返しです。人間が誤答して点数を引かれた直後にワトソンが同じ答をして点数を引かれるということがありました。これは、他者の誤答がシステムに伝わっていないという問題であり、本質的問題ではありません。二つ目は、短い質問への対応です。映画のタイトルが質問文となって、その監督兼俳優を答えさせるカテゴリにおいて、ワトソンの回答速度が人間に追いつかなかったという問題です。人間は映画のタイトルを聞いただけでそれについて知っていると瞬時に判断しボタンを押すことができるのに対し、ワトソンは答を探索してからボタンを押すか否かを判断しているためです。これは、ボタンを押すタイミングをカテゴリにより変化させることにより対応できます。
ワトソンは、知能をシミュレートしているだけです。『ジョパディ』に最適化して、たまたま人間のチャンピオンに勝っただけかもしれません。ほんとうに何かを「知っている」のでも「理解している」のでもありません。人間のように概念や理論を生み出すこともできません。
人間は鳥や昆虫のように空を飛ぶことはできませんが、飛行機で空を飛ぶことができます。コンピュータは人間のように考えることはできませんが、同等以上に「考える」ことができつつあります。