2025年の働き方を予言した『ワーク・シフト』については、先日ブログ「2025年の働き方の予言|『ワーク・シフト』」を書きましたが、その中のテクノロジーの進化の内容では、私は一部意見が異なります。
『ワーク・シフト』では、テクノロジーに関しては、次の10の要因に注目すべきであるとしています。
- テクノロジーが飛躍的に発展する
- 世界の50億人がインターネットで結ばれる
- 地球上のいたるところで「クラウド」を利用できるようになる
- 生産性が向上し続ける
- 「ソーシャルな」参加が活発になる
- 知識のデジタル化が進む
- メガ企業とミニ起業家が台頭する
- バーチャル空間で働き、「アバター」を利用することが当たり前になる
- 「人工知能アシスタント」が普及する
- テクノロジーが人間の労働者に取って代わる
しかし、8項目にある「バーチャル空間で働き、『アバター』を利用することが当たり前になる」ということは、ないと思います。この部分を引用します。
世界中の人たちと連絡を取り合いながら、バーチャル空間で仕事をする人が増える。それにともない、バーチャル空間で自分の身代わりとなるキャラクター ― 「アバター(分身)」と呼ばれる ― がしばしば用いられるようになる。
世界中の人たちと、電話、電子メール、テレビ会議などで連絡を取り合いながら仕事をする人が増えることは間違いないことです。それをバーチャル空間と呼んでもいいと思います。直接会って話しをするのと、テレビ会議で話をするのでは、どんなに画面が大きくなり、解像度が上がったとしても、違いがあります。
しかし、「自分の身代わりとなるキャラクター ― 『アバター(分身)』と呼ばれる ― がしばしば用いられるようになる」ことはありません。
2006年頃、Second Lifeというものが、話題になったことがありますが、現在では、ほとんど忘れられています。Second Lifeとは、3次元グラフィックスで構築された仮想空間で、その中でアバターが換金したり、売買したりできるものです。一時期、日本の企業もオフィスを構築しました。
Second Lifeが流行らなかった理由は、操作が難しい、なんでもお金がかかる、結果として広告だらけとなるなどの理由があげられていますが、一番の理由は、アバターとしての活動に魅力を感じる人が少なかったせいだと思います。
ロールプレイイングゲーム(RPG)のように、活動に目的があれば、アバターとしての活動に熱中する人はたくさんいます。Second Lifeのように、特に目的がない仮想空間の中では、アバターとしての活動に熱中する人は、それほど多くはありません。現実世界でさえ、人生の目的がわからないと悩む人が少なくありません。
Second Lifeのようなバーチャル空間で、アバターで仕事をする人が増えるということであれば、結果はもう出ていると言えます。
もっと現実に近い仮想空間でアバターを使う考えもあります。例えば、現実のテレビ会議に、自分でなくアバターが出席するというものです。
会議が重なって、出られない時に代理の人を出席させる代わりにアバターを出席させ、自分の意見を言わせたり、会議の状況を報告させたりという使い方です。これは、技術的には可能になりますが、使われることは無いと思います。
それは、やはり他の出席者が、本人が出席せず、代理の人も出席せず、アバターが出席したということをどうとらえるかという問題です。他の出席者は、この会議が軽んじられたと感じ、誰もアバターのいうことなど聞かないのではないでしょうか。
どうしても出席できない会議で、他の出席者に伝えたいことがあるならば、電子メールで伝えるという代替手段があります。アバターなどよりは、こちらのほうが好まれます。
テレビ会議で自分の代わりに出席させたアバターに質疑応答をさせるということはどうでしょうか。技術的には、極めて困難です。他の人の質問に対し、本人の考え方をバックグラウンドにしながら、適切な対応をしなければなりません。
一般的な質疑応答であれば、可能になるかもしれませんが、個別の特殊な場面で、アバターに適切な対応をさせることは、不可能に近いと思います。また、可能になったとしても、アバターの対応に本人が責任を取れるかという問題があります。組み込まれたプログラムのバグにより、不適切な対応をする可能性は常にあります。
以上の理由により、アバターが仕事で自分の身代わりになることはないと考えます。