『ワーク・シフト』では、2025年の働き方を予想するにあたり、1990年と現在の働き方を比較しています。私も、1990年当時の働き方を振り返ってみます。
1990年は、まだ携帯電話はなく、緊急呼び出しの時は、自宅に電話がかかってきました。これは、電話をかける方も気を遣うことでした。深夜にかけた場合、家族も起こしてしまうからです。緊急呼び出し用にポケットベルを持たされている人もいました。
パソコンは、フロアに数台置いてあり、必要な人がそこに行って使うという方式でした。ひとりひとりの机の上には、パソコンはありませんでした。ワープロソフトや表計算ソフトを使っていましたが、使える人だけが使うという感じでした。私は、これらのソフトの使い方は、マニュアルを見ながら使って覚えました。
個人でパソコンを持っている人は、主にゲームなどの趣味で使っていました。個人のパソコンで仕事をしている人はほとんどいなかったと思います。パソコンは30万円ぐらいから、ワープロソフトや表計算ソフトは、数万円以上していましたので、個人ではなかなか手が出なかったと思います。私は、まだ、自分のパソコンは持っていませんでした。
ニフティやPC-VANといったパソコン通信サービスは、既にはじまっていました。1200bps~2400bps程度の通信速度のモデムで数万円しました。
インターネットは、日本ではまだ使われていませんでした。コンピュータと端末機を結んだデータ通信は、主に銀行のオンラインシステムのような専用の業務システムで使われ、電子メールはごく一部の人たちの間で使われているだけでした。
仕事で作成するドキュメントは、通常ワープロソフトで作成していました。手書きのものもありました。自宅にパソコンは無かったので、家に仕事を持ち帰るときは、手書きの書類で作業できるものだけでした。
携帯電話がありませんので、出張中の人に緊急に連絡を取ることは大変なことでした。支店などにいれば良いのですが、宿泊しているホテルや新幹線、空港などにも電話しました。出張中の人に連絡をつけるためのテクニックや工夫は、個人に依存する面がありました。
時間の細切れ化は、既にありました。電話がかかってくるたびに作業は中断されました。場合によっては、昼間は電話対応に追われ、まとまった事務作業ができるのは、夜か休日ということもありました。電子メールの導入時は、このような状態を回避することも、目的に入っていました。電子メールは、事務作業が一段落して手が空いたときに読むという使い方を想定していました。
1990年の私が、いきなり2012年に連れてこられたら、インターネット、パソコン、スマートフォン、携帯電話の便利さに感激すると思います。しかし、忙しさや、時間に追われる状況にびっくりすることはありません。そのあたりは、変わっていないと思います。電話が電子メールに変わっただけです。
『ワーク・シフト』の著者の1990年の働き方は、ずいぶんとゆったりしていたというのが、私の素直な感想です。バブルがはじける日本とそんな日本に脅威を覚えていたアメリカの差だったのでしょうか。