選択理論とは、米国の精神科医ウイリアム・グラッサー博士が発表した心理学の理論です。その理論では、人間には次の5つの基本的欲求があるとされています。
愛/所属 … 協調性、協力、所属意識
力/価値 … 競争、重要視、達成感
自由 … 自己決定、自律、自己選択
楽しみ … 学習、発見、好奇心
生存 … 身体的安全、健康、安定
それぞれの人の5つの欲求の強さは遺伝的に決まっているとされています。
愛/所属の欲求と力/価値の欲求
ここで、愛/所属の欲求と力/価値の欲求の関係について考えます。
「泣いて馬謖を斬る」の場面を想定します。
蜀の武将・馬謖が諸葛亮の指示に背いて敗戦を招き、この責任をとり馬謖が処刑されるときに、愛弟子の馬謖の処刑に踏み切るにあたり諸葛亮が涙を流したという故事です。
愛/所属の欲求は馬謖を助けようとします。
力/価値の欲求は馬謖を裁こうとします。
どちらかの欲求が強く、もう一方の欲求が弱い人は、行動の決断が容易です。
しかし、愛/所属と力/価値の両方の欲求が強い人は、自らの中で引き裂かれるような思いで決断を下さなければなりません。決断力が弱ければ決断を下せません。
愛/所属と力/価値の欲求は、人に反対方向の行動を選択させる欲求です。ある意味では、相反する欲求ということもできます。
自由の欲求と生存の欲求
次に、自由の欲求と生存の欲求について考えます。
安定した仕事を辞め独立起業するかどうか決心するという場面を想定します。
自由の欲求が強い人は独立起業を選択します。
生存の欲求の強い人は安定した仕事を継続することを選びます。
しかし、自由と生存と両方の欲求の強い人は、決断に迷うことになります。自由の欲求と生存の欲求も反対の行動を選択させる欲求です。
欲求間の矛盾
このように、選択理論の提唱する5つの欲求には、それぞれ反対の選択を促す2組の欲求が含まれています。
そして、この組となっている欲求が両方強い人は、なかなか決断を下せません。決断を下すためには極めて高い決断力が必要とされ、決断を下した後も後悔することが多くなります。
5つの欲求の強さは遺伝的に決まっているということですから、変えることはできないと考えるべきです。
そうすると、愛/所属と力/価値の両方の欲求の強い人、または、自由と生存の両方の欲求の強い人は、人生の重要な場面で決断がなかなか下せないということになります。決断を下すことは、どちらかの欲求をあきらめることになります。
このような悩みを持っている人に対して、選択理論はどのような解決策を提示できるのか、大きな課題となります。
何らかの方法で、相反する欲求のどちらかを弱めるという方法しか、解決策はないように思えます。
そうすると、遺伝的に決まっている欲求を無理矢理に抑えつけることになり、どこかで抑えつけられた欲求がゆがんだ形で吹き出してきます。
もしかしたらこれは、人類にとっての大きな課題なのかもしれません。
選択理論については、次の本がわかりやすく説明しています。