本書では、日本破綻を防ぐために、政治が有効に機能する場合に筆者らがもっとも適切と考える財政・社会保障の再生プランを「プランA」とし、そのような大きな制度改革を実現するまでの時間を稼ぐためのプランを「プランB」として提示しています。
本書では、日本国債の引き受け手がなくなること、すなわち日本国債のデフォルトが発生することは否定しています。最終的には中央銀行が国債を引き受け、デフォルトを回避すると予想しています。その場合、その副作用として悪性インフレを招くとしています。なぜ、悪性インフレとなるかの説明はありません。日本国債が売りに出されると円安になるとは予測していますが、円安になれば景気が回復する視点が欠如しています。景気は回復するが、悪性インフレにならない程度に日本国債が売られる点があるはずです。この観点が欠落しています。さらに、いくつかの仮説を神話として最初に切り捨てています。
神話1として、「内国債だから問題ない」をあげています。たとえ、内国債でも世代間格差を発生させているということです。確かに問題ないとはいえません。
神話2として切り捨てているのは、「増税なしで、成長とインフレで財政再建できる」という主張です。インフレと経済成長率を高めれば、「名目経済成長率」が「名目金利」を上回る状況をつくることができるというものです。これに対しては、成長率が金利を上回るかどうかは不確実だと反論しています。そして、公的債務残高(対GDP)の改善に必要なインフレ率として次の表をあげて、実質的に不可能な割合だと反論していますが、表の出所は筆者作成となっていて根拠がはっきりしません。
実質成長率 | 0 | 1 | 2 | 3 |
---|---|---|---|---|
インフレ率 | 19.7 | 13.8 | 7.8 | 1.8 |
神話3として、「物価が上がれば政府支出は実質的に削減される」をあげています。これに対しては、「政府の実質支出は高齢化要因によって決定される」としています。しかし、物価が上がれば、既存の債務負担が相対的に下がる点については言及がありません。
神話4として、「名目成長率と税収の伸びは安定的な関係にある」を切り捨てています。この仮説は必ずしも正しくないとしています。しかし、安定的な関係にある必要はなく、正の相関があれば良いのであり、グラフを見る限りはかなり大きな相関係数で正の相関があります。
以上、見てきたように神話として切り捨てた仮定には、必ずしも切り捨てられないものがあるのに対し、「プランA」には首をかしげざるをえないものがあります。ひとつは、「速やかに20%増税せよ」というものです。増税に伴う景気悪化については、考慮がありません。また、「超党派で議論せよ」というのもありますが、現在の日本の政治では望むことはできません。「プランB」は、対外資産の公的蓄積ですが、これは、円安傾向に導き、景気回復につながるプランです。
本書は、必ずしもわかりやすいと言えませんが、批判的に読めば得るものがあります。