本書を読む前は、大阪都とすることにどれだけの意味があるのか疑問でした。それが、本書を読んだ動機でした。
大阪都が、東京都と同様になるという前提で、読む前に次のように考えました。
読む前の予想
1.大阪市の役割が区に分割される
徴税権が区に移管され、住民サービスの責任も区に移ります。市議会も区議会に分割されます。
2.区長が公選となる
大阪市長の代わりに各区の区長が公選となりますが、分割される分、力も弱くなります。
3.固定資産税などが都税となり、大阪府より大阪都の税収が増える
固定資産税などは市町村税ですが、東京都だけは都税です。
大阪市にとっては、実質的に区に分割されることになります。また、全体の税収も減ります。
そのため、大阪市の徹底的な抵抗が予想されます。
住民にとっては、区長も公選となり、区ごとにきめ細かな住民サービスを受けられるようになります。
しかし、それだけでは、大阪都とすることはハードルが高すぎるのではないかと考えました。
『体制維新―大阪都』の主張
それに対し、本書の主張は以下のとおりです。
現在、大阪市は産業政策やエネルギー政策、広域インフラ計画、海外プロモーションなどを担うとともに住民サービスも担っています。
それに対し、大阪府は大阪市以外の市町村の産業政策等を担い、大阪市以外の市町村が住民サービスを担っています。
1.大阪府と大阪市の二重行政の弊害が大きい
水道事業が大阪市と大阪市以外の市町村で分割され非効率であることや、府立大学と市立大学の二つも公立大学があることなどが例にあげられています。
2.広域自治体と基礎自治体は役割分担すべき
自治体は、産業政策等を担う広域自治体と、地域の事情にあった住民サービスを行う基礎自治体に役割分担すべきであり、この二つを一つの自治体で兼ね備えるのは無理だとしています。
そのうえで、260万人の人口を抱える大阪市は基礎自治体としては大きすぎるため、8~9の区に分割すべきとしています。
3.東京都は固定資産税と法人住民税(市町村民税法人分)、特別土地保有税の三つを調整財源としている
この三つの税は都が徴収していますが、都が45%を取って、55%を各区に調整配分しています。
「大阪都構想」では地方交付税と合わせて、61%を区に調整配分としています。
二重行政の弊害をなくし、きめ細かな住民サービスを行うためには大阪都とすべきであるという主張です。
感想
大阪都の実現までには、地元議会の議決、住民投票による過半数の賛成、国会での法改正とまだまだ高いハードルがありますが、是非、実現してほしいと思います。
ただし本書では、大阪府のように狭いところに産業政策等を担う自治体として大阪市と大阪府の二つがあることを強調し、あくまでも大阪府と大阪市の問題だとして他の政令指定都市からの反対を避けようとしています。
しかし、主張の多くは、神奈川県と横浜市、愛知県と名古屋市など他の道府県と政令指定都市の関係でも同じはずです。そこには、政治家としての現実的な打算を感じます。