『イスラーム国の衝撃』の簡単なまとめ

イスラーム国の衝撃

ここのところ世間では「イスラム国」の話題でにぎわっていますので、『イスラーム国の衝撃 (文春新書)』を読んでみました。なるべく簡単にポイントだけをまとめます。

「イスラム国」はなぜ脅威か

領域支配

「イスラム国」がそれまでのテロ組織と違うのは、イラク北部と西部およびシリアの北東部・北部を支配したことです。自ら「国」を名乗ってはいますが、どこの国も国際機関も「国」としては認めていません。

カリフを名乗った

「イスラム国」の指導者はカリフを名乗りました。これは、イスラム法の理念からは、全世界のイスラム教徒の政治的指導者としての地位を主張したことになります。

しかし、世界中のイスラム教徒が「イスラム国」の指導者をカリフと認めたわけではありません。各国の政権や政権に近い多くの著名・有力イスラム学者は、「イスラム国」指導者のカリフ承認を拒絶しています。

「イスラム国」への移住を呼びかけた

「イスラム国」の指導者は、全世界のイスラム教徒に「イスラム国」への移住を呼びかけました。2014年9月のCIAの推計では、80カ国から1万5000人以上が戦闘員として参加しています。このうち西欧諸国からの戦闘員の割合は、20~25%程度とみられています。

卓越したメディア戦略

全世界のイスラム教徒が断食を行うラマダン月は、宗教感情が高まり、テレビの視聴率が高まる月です。そこにインターネットを通じて、「実写版・カリフ制の復活」を投入しました。

斬首による処刑映像の公開と異教徒の奴隷化の主張は、宣伝効果と威嚇効果をねらったものです。映像は、考え抜かれた演出・脚本とカメラワークを駆使し、高価な機材で時間をかけて撮影しています。

インターネット上で刊行している機関誌では、イスラム法学者の有力学説を多数引用して、征服地の異教徒の奴隷化を正当化しています。

「イスラム国」は、インターネットを使い、卓越したメディア戦略をとっています。

アルカイダと「イスラム国」の関係

2001年の9.11事件以降、米国の「対テロ戦争」の結果、アルカイダは追いつめられました。その結果、関連組織が各国で自律的に形成されていきました。(以下の分類は、松本光弘さんの「グローバル・ジハードの姿」によります。)

正統アルカイダ

アフガニスタンとパキスタンに潜伏したアルカイダの中枢です。具体的な作戦行動を行う主体というよりも、思想・イデオロギーのシンボルとなっています。

アルカイダ星雲

アルカイダの名を冠するか、協力関係にある組織です。アルカイダの理念やモデルを共有しています。「イスラム国」もこのひとつです。

勝手にアルカイダ

「ローン・ウルフ(一匹狼)」型テロを行う各地の共鳴者・組織です。先進国に個人として潜伏していたり、思想に触れて感化された人がいます。直接的にアルカイダなどの組織とつながりはありません。

「イスラム国」への誤解

豊富な資金源?

「イスラム国」の資金は、「略奪経済」の域を超えていません。主に次の2つが資金源です。

  1. 支配地域での人質略取による身代金の強奪
  2. 石油密輸業者などのシリアやイラクの地元経済・地下経済からの貢納の徴収

逆に言えば、略奪でまかなえる程度の組織であるということです。

貧困や差別・偏見が原因?

「イスラム国」の戦闘員は個人で参加していることに特徴があります。金銭的な代償よりも、崇高なジハードの目的のために、一身を犠牲にするつもりで参加しています。あるいはそのような高次の目的に関与することに魅力を感じて参加しています。

貧困を原因とする被害者でもなければ、人殺しをしたいならず者でもありません。欧米での差別・偏見が原因でもありません。

帰還兵のテロが危険?

帰還兵による故国でのテロも現実のものとなっています。

しかし、イラクやシリアでの武装・組織をそのまま故国で使うのは現実的ではありません。そのような計画があれば容易に探知されます。テロが起きるとしたら、散発的で組織性のないものです。

過剰反応により、迫害や人権剥奪が行われることの方が問題になります。

おわりに

以上、『イスラーム国の衝撃』の要点をまとめました。ここからは、私の感想と意見です。

大切なことは、「イスラム国」をどこも「国」とは認めていないし、「イスラム国」の指導者をカリフとは認めていないことです。自分で宣言しているだけです。また、「イスラム国」はイスラム社会の代表でもありません。

日本のオウム真理教と非常に似ている気がします。どちらも、人を平気で殺し、人の命をないがしろにしています。第3者から見ると、なぜ参加しようと考えるのかわからない人が参加しています。

オウム真理教は仏教から、「イスラム国」はイスラム教から、都合の良いところだけをつまみ食いして、自分たちの行動を正当化し、自分たちが宗教的に正しいと主張しています。

その主張は「原理的」には「正しい」ようです。だからこそ、若者を引きつけるのです。しかし、原理に則り、教条主義を振り回した結果は、収容所群島や文化大革命、ポル・ポトの大虐殺などで歴史が示しています。

イスラーム国の衝撃』に書かれたことが、すべて妥当であるとは私には言えませんが、「イスラム国」について知りたい方には一読をお勧めします。

注:「イスラム国」の表記は議論がありますが、現在一番よく見かける括弧付の「イスラム国」としました。しかし、この名前は「イスラム国」が国家であるかのような誤解とイスラムの代表であるかのような誤解を与えるため、ふさわしくないと思います。

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