『書くことについて』 (小学館文庫)は、モダン・ホラーの巨匠であるスティーヴン・キングの文章読本です。半生の自伝から、文章の書き方、作家になる方法などを書いています。
本書には目次がありませんので、構成に沿って紹介します。
半生の自伝
最初の章は「履歴書」で、子供のころから、作家になり、ドラッグとアルコールづけの生活を送っていたころまでの半生の自伝です。
文章の書き方
次に、「道具箱」と名付けた章で、スティーヴン・キングの文章の書き方とも言うべきことが示されています。
言葉を飾らない
いたずらに言葉を飾ることを「飼っているペットに夜会服を着せるようなものだ」と書いています。ペットは迷惑で買主は恥をさらすということです。
平明、簡潔な言葉を使うことを勧めています。気取った言葉や回りくどい言葉を使うことを嫌っています。
受動態を使わない
受動態の使用はできるだけ避けた方がいいと思っているそうです。
受動態を好む人は臆病な人です。主体的に行動せず、他者に責任を負わせることにより、安心感を得ます。
受動態は弱々しく、煩雑です。能動態を使えばすっきりと簡潔に表現できます。
副詞を使わない
副詞を使うことを戒めています。
副詞は、動詞、形容詞、副詞を修飾します。副詞を使いすぎることは、余計な修飾語が増え、文章を冗長にします。
特に会話を説明する地の文で副詞を使うことは、絶対に許せないとまで書いています。
パラグラフの構造
スティーヴン・キングはパラグラフの構造を重視しています。
パラグラフは、文章の内容だけでなく、外見にもかかわっています。パラグラフの短い本は読みやすそうであり、ぎっしりと文字の詰まった本は読みにくそうな感じがします。
説明的な文章では、パラグラフの構造は無駄なく合理的でなければなりません。冒頭に結論を提示し、そのあとにそれを説明する文章を持ってきます。
書くことの基本単位はセンテンスではなく、パラグラフだそうです。パラグラフの干渉作用により、言葉は言葉以上のものになるそうです。
作家になる方法
3番目の章は、「書くことについて」と名付けられています。作家になる方法が書かれています。
たくさん読み、たくさん書く
作家になりたいなら絶対にしなければならないことは、たくさん読み、たくさん書くことだと断言しています。
その代りのものはなく、近道もないということです。
集中できる環境を作る
スティーヴン・キングは、書くときには集中できる環境を作っています。
仕事場には、テレビやゲーム機などは置かず、電話もコードを抜いています。ドアもカーテンも閉め、気が散るものはすべて取り除いています。
プロットには重きを置かない
スティーヴン・キングは小説のプロットには、重きを置いていません。
「ストーリーは地中に埋もれた化石のように探しあてるもの」と言っています。
状況設定することにより、自然にストーリーが発生するそうです。
画家は白いキャンパスに出来上がる絵が見えます。彫刻家は素材の中に像が見えます。モーツァルトも頭に浮かぶ曲を五線紙に書き写しているだけだと言っています。これらと同じことかもしれません。
6週間寝かせる
一度書きあがった原稿は最低6週間寝かせるそうです。6週間後に新しい視点で原稿を読み直し修正しています。登場人物の動機に大きな間違いがあることが多いそうです。
交通事故
次の章は「後書き 生きることについて」と題し、交通事故にあった話です。
最後に「補遺 その一 閉じたドア、開いたドア」というタイトルで、原稿の見直し作業の実例が日本語と英語で掲載されています。
見直し作業のほとんどは文を削る作業です。
おわりに
スティーヴン・キングは、簡潔な文章を好んでいます。そのため、副詞と受動態を嫌い、言葉も平明な言葉を選んで使っています。ここは誰でも参考になるところです。
プロットには重きを置かずに、状況設定をして自然にストーリーを発生させ探しあてることは、たくさん読み、たくさん書くことによって、はじめて可能になることです。