私の父は、食道がんでした。医者嫌いで、熱があり、何も食べられなくなり、ガリガリに痩せてから、はじめて病院に行きました。すぐに入院しましたが、私が医者から聞いた話は、がんは全身に転移しており、既に手遅れだということでした。約3週間後、父は亡くなりました。
本書によると、父は医者に行かずに手遅れとなったため、「手遅れの幸せ」だったのかもしれません。痛みは訴えていませんでしたので、著者の言うとおり、痛みがないため医者にかからなかったと言えます。
「自然死」が一番だそうです。一般に動物は生殖能力が無くなると寿命です。人間は数少ない例外です。老齢になれば体の一部が思うようにならなくなるのは当然で、無理に直そうとすると苦しいだけです。若いうちで治る病気は治療の意味がありますが、老齢になってからの直る見込みのない病気は、苦しさや不便さを軽減すること以外に、元のように直そうとすることは意味のないことです。死に際は、脳内モルヒネが出て、苦しくはないそうです。それを医療が無理やり引き戻すと苦痛が増します。
がんになるのはその組織が寿命をむかえたからで、元には戻せません。手術で取り除くか、放射線で焼き殺すか、抗がん剤で毒殺するしかありません。いずれにせよ、正常な組織にも影響を及ぼします。若いうちのがんは治療の意味がありますが、老齢になると、がんは避けられず、治療は苦しみを増すだけです。
死にゆく自然の過程を邪魔しない
死にゆく人間に無用の苦痛を与えてはならない
これが著者の考える「医療の鉄則」です。
私も80歳を超えたら、がんになっても治療はやらずに、自然死にまかせようという気になりました。