著者のホイチョイ・プロダクションズが、1983年に出版した『見栄講座』は、ミーハーを皮肉った内容にもかかわらず、真似する人が続出するという現象が起きました。『戦略おべっか』も同様の現象が起きそうです。
木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)が、信長のために懐でゾウリを暖めていた話から始まり、電通を引き合いに、現代ビジネスにおける成功のコツを「気くばり」すなわち「戦略おべっか」だと断言しています。
川田修著『かばんはハンカチの上に置きなさい』では、「アポは2分遅れでも必ず電話を」といっています。それに対し、わざと2分遅れるようにして、「2分遅れます」と電話し、相手の歓心を買うことを「戦略気くばり」と名づけています。
この故意の「2分遅れます」電話以外の項目は、実際に行われていることであり、このような「戦略おべっか」が上手な人が、出世していることも事実です。
著者は、中坊公平の「人を動かすのは、正面の理、側面の情、背面の恐怖、の3つだ」という言葉を引いて、若い間は「正面の理」しか見えていないが、いつしか、人間を動かすのは「情」や「恐怖」だと思い知らされる、と書いています。「戦略おべっか」とは、この「情」を動かすための有効な手段です。
本書に紹介されている例以外にも、得意先の奥さんや子供の誕生日を覚えておき、誕生祝いにプレゼントをするとか、接待ゴルフの後に、浴場で背中を流すなどは、よく聞くところです。
私も、若い頃は、このような話を聞くたびに、そこまでやるかと、一面では感心しながら、一面では嫌悪感を抱いていたものです。
しかし、「戦略おべっか」がうまい人間を重用した結果が、画期的新製品を生み出せなくなった電機産業であり、オリンパスのような粉飾決算を行う会社であることも、紛れもない事実です。
本書には、気くばりの達人の秀吉であれば、原発事故の対応で、東電に日本酒と肴を持参し、酒を酌み交わしながら、「お前たちが頼りだ、頑張ってくれ」くらいのことは言ったに違いないとまで書かれています。
自民党政権は「おべっか」の政治であり、金で汚れた「情」の政治からの決別を選んだ結果が、民主党政権の誕生でした。原発事故が「理」の民主党政権で起きたことは皮肉であり、「情」で原発事故処理を行えば、少なくとも菅元首相よりもうまく処理できるとも書かれています。
このような本書の皮肉に気づかずに、わざと約束の時間に2分遅れて、「2分遅れます」と電話する人が出てきそうで、こわいです。