生きた言語を語る『街場の文体論』

 著者の30年におよぶ教師生活の最後の授業の講義録です。興味深い話がたくさんあります。ここでは、印象に残った話を7つ紹介します。

1.合格点をとる文章と情理を尽くして語ること

 この程度書いておけばいいだろうと考えて書かれた文章が、一番つまらないそうです。文章は情理を尽くして語らなければなりません。

 工業製品では、最近、過剰品質が問題になります。日本の製品は過剰品質のため、価格競争力をなくしているというものです。文章と工業製品は違うのでしょうね。

2.本と目が合う

 書店で本と目が合い、買ってしまうことがあります。電子書籍で同様の状況を作ることは困難です。そのために、リアルの本屋はなくならないといえるかどうかはわかりません。

3.アナグラム

 おもしろいアナグラムがたくさんあります。アナグラムとは文字の置き換えです。ある言葉を構成している文字を入れ替えて、別の言葉を作ることです。

 「Elvis/lives(エルヴィスは生きている)」
 1977年に亡くなったエルヴィス・プレスリーのことです。

 「Dormitory(寄宿舎)」と「Dirty Room(汚い部屋)」

 「Psychiatrist(精神科医)」と「Sit, chat, pay, sir(座って、話して、金払って)」

 他にもいくつか紹介されていますが、こういうものを作るのが、得意な人とそうでない人がいます。私は作れません。作れる人はわりと簡単に作るようです。言葉をスキャンする速度の差のような気がします。

4.翻訳されるものとされないものの違い

 丸山眞男は、英訳されているのに、吉本隆明や江藤淳は翻訳されていません。丸山眞男と吉本隆明は、研究対象も結論も近いにもかかわらずです。

 丸山眞男は軍国主義が嫌いで、戦前から批判し続けていました。吉本隆明は、軍国少年でした。軍国主義の時代に少年期を過ごした人が捨てきれない少年期の記憶を引きずっています。あの時代にも「真実なもの」は、あったはずだと、異議申し立てをしたいという思いを捨てきれません。それが外国人にはわからないということです。フランスのヴィシー政府に従ってユダヤ人虐殺に加担したフランス人など、外国にも同様の事情はあったはずですが、目を背けているということです。

 吉本隆明や江藤淳のわかりにくさは、上の世代にも下の世代にも共有されず、外国人にも理解されない彼ら特有のトラウマが原因だったのかと納得しました。

5.エクリチュール

 エクリチュールとは、ある言語の中で、ある職業やライフスタイルの人で共通に使われる言語です。母語は選択できませんが、エクリチュールは選択できます。しかし、1度選んだら変えられないとしています。それは、日本には当てはまらない気がします。例えば、会社で仕事をしているときに標準語で話す時のエクリチュールと、生まれ故郷で幼なじみと方言で話すときのエクリチュールは、変わっているのではないでしょうか。

 ヨーロッパではエクリチュールと社会階層が密接に結びついているとは、良く聞くことです。ヨーロッパの階層社会は、エクリチュールによって、流動性を失っています。

 日本では、個人の中で、エクリチュールの切替が行われています。ヨーロッパ社会が日本に学ぶべき点です。

6.メタ・メッセージ

 メタ・メッセージとは、メッセージの読み方を指示するメッセージです。例えば、授業においては、授業の内容は、通常のメッセージで、「これから授業をはじめます」というのは、メタ・メッセージになります。

 メタ・メッセージは、聞き落としたり、誤解したりすると、メッセージよりも大きな影響を受けます。そのため、メタ・メッセージは、「宛て先」が、はっきりと指示され、聞き手に届きやすいものになっているそうです。

 コンピュータの世界に、コンパイラコンパイラというものがあります。コンパイラとは、人が読めるプログラム言語をコンピュータだけが読める機械語に変換するソフトウェアのことです。コンパイラコンパイラとは、コンパイラを生成するソフトウェアのことを言います。すなわち、コンパイラコンパイラは、メタ・メッセージになっています。

 コンパイラよりもコンパイラコンパイラの方が、コンピュータに届きやすいかというと、そうとも言えるというところでしょうか。

7.生き延びるためのリテラシー

 最新流行をキャッチアップするのでは、常に後手に回ってしまいます。急激な変化に振り回されないためには,中長期的な展望を持たなければなりません。

 移民を受け入れない限り、日本の人口は減り続けます。テクノロジーの進歩は続きます。日本の終身雇用制度は崩壊します。このあたりが、ほぼ間違いのない中長期的な展望になります。どのように先手を打っていくかが大切です。

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